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グルメ・コンプレックス殺人事件−3
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グルメ・コンプレックス殺人事件
『取調べ室の中−2』
「それから僕はどうなったんですか?」
やおら、木村秀夫がたずねた。
「それから、あなたのお店を気に入ったらしい母娘が1週間に一度は店に現れることにあなたは一時的に満足した。それは一時的であって、必ずしも本当の満足ではなかった。そこで、あなたは何をしたの?」
「僕もそれを知りたいですね」
彼は憮然として問いかえした。
「あなたは無意識に母娘のお料理に微量のヒ素をいれた。微量だからすぐに効果があるわけではない。そんな時間のかかることをしている自分に嫌気がさした。
でも、そうしている自分の中に奇妙な優越感がわいた。この母娘は自分の作った料理をたくさん食べているうちに死んでしまう。原因不明のまま。砒素中毒を疑わせるようなことは絶対ないような工夫をした。しかも、娘が先に自然死するような細工を施した。そして本当に娘は死んだ。
ある日、お母さんは一人でお店にやってきた。
あなたは娘さんのことをたずねた。
お母さんは涙ぐみながら、娘は死んだと告げた。
「だから、今日は娘の弔いなの。娘の好きだったおいしいお料理を出してね。ケーキを添えて」とお母さんは答えた。あなたのお店では食後に出すケーキが自慢だった。
「特大のケーキを作りましょう」とあなたは答えた。
その時、急にお母さんは泣き出した。
「あの娘は私の本当の娘じゃないの。あの娘は施設から貰い受けた娘なの。だからなお不憫なの。もう生きてゆく気になれないの。死んだ方がましなの」
「そんなこと言わずに、ねえ。お母さん、元気出して。僕の作る料理をたくさん食べてください」とあなたが必死に慰めてもお母さんは泣きやまなかった。
結局、あなたはケーキを作ることが出来なかった。お母さんが昏睡してその場に倒れたからなのね」。
「それはヒ素のせいではない」木村秀夫は断固として言った。
「そうね。それはヒ素のせいではなかった。お母さんは長年の疲れで、その場に昏倒し、あなたが救急車を呼んで病院に搬送、そのまま、ほとんど意識不明のままあなたの手に帰ってきた。あなたはこの不遇な老婆を引き取り、有料老人ホームを探してそこに入れた。それが3年前だった。意識を取り戻したお母さんはあなたに感謝はしたけど、それが何者かを認識しなかった。
あなたはお母さんの本物の息子であることを告げることを恐れたが、そうする前に記憶喪失状態のままお母さんはあなたの世話になることになった。あなたは奇跡を信じて、毎日のようにお母さんにケーキを作り、おいしそうにケーキを食べるお母さんのそばで満ち足りていた。ここまでは良かった。その後のことはさっき話した通りなの。これでいい?」
木村秀夫はうつむいたまま何も言わなかった。横田主任研究官は少しの間沈黙していたが、やおら立ち上がると優雅な物腰で、うなだれている木村秀夫のそばに近寄ると肩に手を置き
「坊やをどこにかくしたの?」と囁くように言った。
木村秀夫はピクリと体を動かすと、椅子から立ち上がり、机の前に手をついて「そんなこと僕には関係ない」と断固とした表情で叫ぶように言った。
「公園のそばに落ちていた森永のキャラメルの包紙にあなたのかすかな指紋が残っていた。あなたは子どもたちが遊んでいる公園の傍の窪地に座って森永のキャラメルを口の中に入れて溶かしていた。
そこは公園で遊ぶ子どもたちの死角になっていたから、誰からも見られることがなかった。5時のチャイムが子どもたちに帰宅を促した。三々五々子どもたちは帰り始めた。その中に必ず一人は行動が鈍く、皆に取り残され、最後に帰る子どもがいた。
あなたはその子に近づき、あっという間に子どもをさらい、近くに止めてあった車に乗せるとその場を離れた。目撃者が誰もいないほど迅速な行動であった。一瞬の出来事には目撃者がいたとしてもその記憶から外れてしまう。あなたはうまい具合に成功したのね。
それからあなたは子どもを自分の部屋に監禁した。あなたは監禁された子どもの前で、おいしいケーキを食べた。子どもがお腹を空かして泣いていても平気で食べ続け食事を与えなかった。子どもはその状態で3日と保たなかった。
あなたは子どもの餓死した遺体を放置したまま、次の獲物を探した。獲物はすぐにつかまり、餓死した子どもの遺体が一人増えた。
あなたはますます興奮して自分の行動を抑止することができなくなっていた。3人目の子どもも同様であった。
3人の子どもの餓死体をもはや自分の部屋に置いておくことができなくなったあなたはある日、子どもたちをそれぞれダンボールの中につめて、腐乱が進んだ子どもの順に庭に埋めた。3人の子どもたちの遺体はあなたの住んでいた屋敷の庭のアジサイの花の根元に埋められていた。そうではありませんか?」
「・・・・・」
<次号最終話へ>
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